ヘッジショートをやってみる

2021年3月8日 オフ 投稿者: おじさんプログラマ

2021/3/8 加筆修正しました。

暴落=我慢の時期、ではなくなります

長期積立投資を行っている場合、5年、10年に1度程度の割合で発生するであろう株価の暴落は、恐怖&悩みの種です。例えば皆さんが株式のロングポジションのみでポートフォリオを組んでいたとした場合、ひとたび株価の暴落がおきたら嵐が過ぎるまで目をつぶって我慢するしか、出来ることはありません。精神的な問題もありますが、嵐の後には手元の資産がごっそり減っているため、現実的に身動きが取れない状態になるのもいただけないところです。

この痛みを緩和する一般的な手段として、債券その他株式と逆相関、もしくは相関性の低いアセットを購入する、というものがあります。もし株価が暴落した場合は、価格が下落していないそれらのアセットを取り崩して株式に資金移動することで、事実上、安い時期での買い増しになります。これにより、回復期での利益をより増やすことができるので、リターンの増大に効果がありますよね。

ここで説明するのは、究極の逆相関であるショートポジションを利用したリスクヘッジです。現実資産として所有するロングポジションの積立投資戦略を崩すことなく、資産全体の目減りを防御し、むしろ暴落時に資産をより増やすための効果的な戦略になります。

ショートポジションをとるのは、私も含め経験の浅い投資家にはなにより心理的な抵抗が大きい行為ですが、多分その多くは理解と慣れの問題だとおもいます。理屈からいっても、手順さえ間違えなければ、リスク資産を一方的に買い続けるよりよほど安全なはずですし、それほど難しいわけでもありません。


ショートポジションって何?

ショートポジションの取り方としては、対象商品の信用売り、プットオプション買い、先物売り、CFDショートなどの手段があります。これらにより価格の下落によって利益を得られる状態を、一般的にショートポジションと呼びます。これに対して、株その他の資産を買うといった一般的な投資、価格の上昇によって利益を得られる状態のことをロングポジションと呼びます。

私がこれまでの勉強で理解した内容からすると、投資をドラクエに例えたとき、ロングポジションは剣ショートポジションは盾に例えられそうです。これ、敵にダメージを与える=利益を得る、敵からのダメージを防ぐ=損失を防ぐ、ということで、我ながらぴったり良いたとえだと思います。

長期個人投資家の多くは、盾を買わないで剣だけで敵と戦うヤバい人で、さらにいうとそれがどれだけヤバいことか分かっていない人、ということになりそう。剣だけで戦っても、頑張れば勝てなくはありませんが、途中で血は沢山流れますし、場合によってはゲームオーバーも多発しそうです。みなさんは痛い思いをなるべく少なくして、エンディングを迎えたいと思いませんか?

ショートポジションの取り方は、別にどのようなものであってもかまわないと思います。重要なのは現物資産として所有するロングポジションと同じ商品、またはほぼ同じような値動きをする商品でショートポジションをとること。あくまで現物資産への保険が目的であって単体で大儲けすることが目的ではないので、レバレッジを掛ける必要はないです。証券会社によって取り扱い銘柄に差があったりするので、適切な銘柄があるかどうかが、どの手段を採用するかの重要な選択基準になると思います。

投資信託の積立投資をやっている人間にとって一番簡単な方法は、米国ETFの信用売でしょう。多様なインデックスETFがそろっていて、かつそれらは皆流動性が非常に高いでので、自分が購入している投資信託の保険として効果的な、また売買がしやすいETFが見つかるだろうと思います。

ただし各国市場は1日24時間のうち開いている時間が限られているため、例えば日本のニュースや市場の状況変化に気づいて米国ETFを即時売り買いする…といった際に、困る可能性があります。こういう状況を避けたいのであれば、売買可能な時間帯の長い、先物やオプション、CFDを利用してもよいかもしれません。

…まあ私自身は投機家ではないつもりなので、そこまでぎりぎりの攻防をするつもりはなく、そのため売買手続きも資金管理もしやすい「東証上場ETFの信用売」をやっている次第です。モノによっては出来高が少なくて、流動性がちょっと微妙なんですけどね。


で、具体的にどうやるの?

では仮にですが、S&P500インデックス連動の投資信託を1000万円積み立てていたとします。ここで、市場の混乱によりS&P500インデックスが暴落しそうな気配が見えてきたときに、S&P500インデックス連動型ETFを信用売します。

ここでは50%保険として500万円分を売ってみましょう。米国ETFであればVOO、東証上場ETFであれば1655を売ればよいでしょう。この時必要なコストは売買手数料+貸株手数料(年利1%程度…そんな長期間持ち続けるポジションではないので、あまり気にする必要ないです、それからこれは直接的なコストではないですが、信用建玉の保証となる証拠金を証券口座においておく必要があります。

この時、現物資産を持っている口座で信用売をやるのであれば、現物資産の額を信用売の証拠金代わりにできますので、現金の準備を必要としない場合もあります。例えばSBI証券であれば、投資信託残高の80%を信用売の証拠金として取り扱ってくれます。信用売買は証拠金価格の3倍までの建玉設定が可能なので、100%のヘッジショートでも資金の追加を必要とせず、投信残高だけで余裕で購入できます。

1.もし心配が杞憂に終わって、暴落の気配がなくなった場合・・・

信用売建を精算します。この時もしS&P500指数が5%高騰していたとしたら、上記のコストに加えて、信用売した建玉には500万×5%=25万円の損失がでることになります。ですが、一方でもともと持っていた1000万円の投資信託の方で1000万×5%=50万円の利益が出ているはずですので、それほど痛い損失ではないでしょう。(思惑と違うほうに5%も動くまで放っておくのはどうかと思いますが、ここはたとえ話なので)投資信託の利益の半分、25万円分を取り崩して信用売建の損失を相殺するもよし、積立投資のペースを暫く落とす、などで実質的なリバランスをするもよしです。
一般的には暴落はあっという間に起こりますが、価格の上昇はゆっくりとなされることが多く、そのため信用売で損害が急激に大きくなることは、普通はないはず。

2.心配が現実になって、暴落が発生した場合・・・

暴落、そして暴落後の高ボラティリティ局面がある程度落ち着くまで心置きなく放置し、その後に信用売建を精算します。この時もしS&P500指数が30%暴落していたとしたら、残念ながら1000万円の投資信託の評価額は700万円まで減少しているでしょう。ですが一方で、信用売建の精算時には500万×30%=150万円の利益がでることになります。

税を支払った残りの120万円が現金として手にはいるので、ここでこの120万円を使って「暴落したS&P500投資信託の買い増し」をします。この時点で投資信託の価値は820万円まで回復します。これにより、資産の本来の下落幅30%を18%に抑えることができました。

暴落時に現金や債券ポジションの取り崩しをして買い増しをするのは、ある意味安値を判断する目利きを試されているというか、勇気がいる行為かと思います。一方で、ショートポジションで稼いだお金を機械的に現物資産の買い増しに充てるのは、元々その銘柄の暴落で稼いだお金なので、投資先を移転することに比べて気分的にも難しくないのでは、と予想します。

この後一般的な傾向に倣って、暫くののちS&P500指数は元の値に回復するとします。この時、下落した数値を基準にすると回復には43%の上昇が必要です。

43%回復後の資産価値は、ヘッジ無しの場合は1000万円ですが、ヘッジ有りの場合には1172万円17%も増えてしまいました


つまり・・・

ヘッジを行った場合、期待通り(?)暴落した場合に損害を大幅に削減できることになります。一方でヘッジのコストは、売買手数料+貸株手数料(年利1%程度)期待が外れた(?)場合に、ヘッジショートポジションの保有期間の間だけ、現物資産の含み益の増加が減る(ただしトータルでマイナスにはならない)という程度です。現物資産がある状態でのヘッジ取引はこういった感じで、それほど危険な話ではありません。

なにより、ヘッジポジションを持っている間は上がっても良し、下がっても良しの状態になります。ちょっとコストを払うだけで、市場がどんなに混乱していようが眠れない夜ではなくなるというのは、何より健康上非常にありがたいのではないでしょうか。まさに保険ですね。

市場が不安定な状況になったら、コストを払って適宜保険を買う、危機が去ったら解約する…を繰り返していくことが、ヘッジのやりかたになります。どの程度の状況で、どの程度の保険料を払って保険を購入するかの判断が、おそらく経験が必要なところなのかと思いますが、コストが少額ならいつやっても問題ないですよね。もしうまく回せるようになれば、同じ価格帯を上がったり下がったりするだけのレンジ相場でも大儲けできる可能性すらあります。


ショートによるヘッジのメリットの一つ…節税

こんな面倒くさいことをせずとも、現物資産を売却すればよいではないか」というのは、当たり前の疑問です。

前述の1000万円の投資信託がつみたてNISAの非課税枠であった場合、一部を売却するということは、売却した分について、その後にあったはずの最大20年間の非課税運用枠を喪失してしまうことを意味します。つみたてNISAのメリットをの大部分を失うことになるため、出来るだけ避けたいところです。

また一般/特定口座での積み立ての場合、その1000万円が多額の利益が乗っていた状態によるものだとしたら、売却した瞬間に20%の譲渡益税の支払いをする必要が出てきます。これも、繰り返し行うと運用資産を必要以上に目減りさせてしまう行為になります。

ショートポジションによるヘッジであれば、これらのコストの発生を回避することができます。税金を支払う必要があるのは、あくまでショートポジションに利益が乗った時だけ(=暴落した時だけ)。もしヘッジショートが損失で終わった場合は、損失分だけ現物資産の利益を無税で現金化できますので、それで相殺すればよいでしょう。資産が大きくなればなるほど、その効果が大きくなるのがお分かりになるかと思います。


ヘッジショートにペアトレードを併用するという選択肢

こちらでペアトレードの紹介をしていますが、ヘッジショートにペアトレードの要素を併用して、暴落時の利益を増大する選択肢も生まれます。例えば最近の米国長期金利上昇によって米国株の下落がおきる、なかでもIT系の株式の下落幅が大きい・・・といったことが容易に予測できる場合、S&P500の投資信託に対するヘッジとしてNASDAQ100 ETFの信用売を行うことで、ショートポジションの儲けの期待値を増やすことができます。


信用売買が怖がられる理由

信用売買で身を持ち崩す人の話は枚挙にいとまがないですが、かれらはネイキッド(裸売り、裸買い)という蔑称をもつ「対応する現物資産(前述の例ではS&P500連動の投信)を保有していない状態での売買」をしていて、しかもレバレッジをかけまくり証拠金が払えなくなる状態に陥る…といった感じの無茶をしている人たちです。一言で言えば信用売買をギャンブル目的で利用している状態ですので、ギャンブルに負ければ地獄を見るのも仕方がないところです。

この人たちは、ドラクエで例えれば「盾で敵を殴る人」ですね。傍から見たら頭〇かしい人です。それで勝てる人もたまにはいるのかもしれませんが・・・


大暴落を無かったことにする魔法の盾=ヘッジショート

稀に発生する大暴落、30%、40%のドローダウンがあった際、ヘッジショートを用いてこの損害を仮に半分程度に抑え込み、安値での大規模な買い増しを発動することができれば、長期積立分散投資は勝利したも同然です。ダウンサイドリスクを抑え込めたら、シャープレシオの分母であるリスク値をがっつりと削減できますので、シャープレシオが跳ね上がります。仮にバイアンドホールド一辺倒で10%程度の期待年リターンがあるポートフォリオがあった場合、その平均年リターンを15%、20%に押し上げることが可能になるはず。前述の通りコストもわずかです。興味がある方は試してみてはいかがでしょうか。

ヘッジショートの効果をグラフ化して可視化してみました。また経済危機における危機回避マニュアルを考えてみました。どちらも記事にしているので、興味のある方はどうぞ。

但し、投資は自己責任ですよ!
変な投資して損しても私は責任取れませんよ!

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